G検定の出題範囲に含まれるAI開発時に注意すべき法律ついて纏めます。
財産権
財産権は、有体物に対する財産権と無形物に対する財産権(著作権、特許権など)にわかれる。データは無形物に属し、知的財産として保護される場合がある。
著作権法
著作権とは何か
著作権法にて、著作権保護の対象となる著作物は”思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。”と明記してある。
つまり、世間に公表したかどうかや、特許において重視される”自然法則”を利用しているかどうかは関係がない。
データ自体に創作性はないが、データベースとして整理されたものには著作権が発生すると考えられる。例えば、過去にタウンページのデータベース模倣が、独創性が高いとして著作権の侵害として認められる判決が出ている。
著作権法の禁止行為
ネット上で公開されているデータからモデルを作成した上で、それを営利目的で販売することは違法に当たる。
また2018年の法改正で、自分で作った学習用データを第三者と共有したり、販売したり、公開することは一定の条件下で適法となった。
AIの創作物の扱い
日本の法律では明確に定まっていない部分も多くある。例えば音楽の楽曲については以下の通説がよく挙げられる。
- AIが生成した短いフレーズを人間がつなぎ合わせた場合は人間に著作権が帰属
- AIが生成した長いフレーズを人間がつなぎ合わせた場合、もしくは1曲を生成した場合は著作権が発生しない
著作権が”思想又は感情を創作的に表現したもの”であることから、AIの創作物に著作権は発生しない、というのが大枠。
特許法
特許権とは何か
特許権というのは、発明を保護するための権利のこと。ここで発明というのは、”自然法則を利用した技術的思想の創作の内、高度なもの“を指す。
人間が発明を行った際には、以下の場合に特許権が認められ、特許発明の実施の独占や第三者の無断使用の際にそれを排除することができる。
- 産業上利用することができる
- 新規性、進歩性などの要件を満たす
日本の特許法においては、自然人ではないAIによる発明は想定されていない。ここでいう自然人というのは法律用語で”権利義務の主体である個人”のことで、”法人”に対する語として用いられる。平たく言えば人間のことで、ここにAIは含まれない。
AIによる発明は対象外だが、アルゴリズム自体は特許法の対象になりえる。一方、学習済モデルのパラメータだけを取り出した場合は、著作権法で保護される可能性は低い。
個人情報保護法
個人情報、いわゆるプライバシーを保護するための法律。個人情報は法律で以下のように要件が定義されている。
- 生存する個人に関する情報”
- 生年月日などの記述で特定の個人を識別できるもの
- 個人識別符号を含むもの(個人を識別できる指紋や顔写真など)
個人情報をデータベースなどで所持し事業に用いている事業者は、個人情報取扱事業者とみなされる。
個人情報をAIで利用する際には、匿名加工情報(個人情報に適切な加工を施し、復元不可能にした情報)であれば、本人の同意を得ることなく第3者へ提供することができる。
個人情報の扱いについての企業の基本的な指針・方針を示すレポートを透明性レポートと呼ぶ。
個人情報を保護しながらデータを利活用することを目的に、PPML(プライバシー保護機械学習)やPPDM(プライバシー保護データマイニング)という研究分野が存在する。
日本においては、AIと個人情報保護の関連ではリクナビの問題が例として挙げられる。2018年にリクナビが開始したリクナビDMPフォローという企業向けサービスで、学生の内定辞退の可能性の予測スコアを有償で提供していた。リクナビは”採用活動補助のため利用企業などに情報提供”することを学生側に明示していたが、毎年80万人に及ぶ利用者の内役8千人の同意を得ていなかったことや、そもそも上述の表記では内定辞退予測に使用されることがわかりにくいことが個人情報保護委員会から指摘された。個人情報保護委員会というのは内閣府関連の行政機関。
不正競争防止法
不正競争防止法は、企業間の競合が正しく行われるために、禁止行為を規定している。禁止行為の中で”不正競争”として10項目が定められており、イメージしやすいのはメーカーの設計図を盗んで類似品を製造するような行為だが、AIに特に関連するのは以下の2点。
営業秘密の侵害
営業秘密というのは、企業が研究開発や営業活動の中で蓄積した情報のうち、秘密であることで企業の競争力の源泉になるような情報のこと。要件としては以下の3点。
- 秘密管理性:秘密として管理されている=>※従業員などに明確にされている必要がある
- 有用性:有益な技術上又は営業上の情報
- 非行知性:公然と知られていないもの
要件の中ではとりわけ秘密管理性を満たすのが難しい。従業員に秘密が明確にされている、管理方法が規定されている、取扱者が決まっていることなどが必要になる。
AIとは関係ないが、営業秘密の侵害に関する過去の事例では、転職先で元の勤務先の営業秘密を明らかにしたようなケースで実際に訴訟が発生している。
限定提供データの不正取得等
ビッグデータなどを保護することを念頭に作られた条文。限定提供データの法律上の要件は以下の通り。()内は具体例。
- 限定提供性:業として特定の者に提供する情報である(グーグルマップのユーザーへの情報提供)
- 相当蓄積性:電磁的方法によって相当量蓄積されていること(電子データであり蓄積データ量が莫大)
- 電磁的管理性:電磁的な方法により管理されていること(PW管理)
- 営業秘密以外の技術上又は営業上の情報
具体的には、窃取・詐欺・脅迫などの不正な方法でビッグデータを取得したり、そのデータを使用したり開示したりした場合に該当する。
その他の法律
独占禁止法
市場の自由競争機能を阻害するような行為を禁止する法律。これに関連する事例としては、2021年3月、公正取引委員会はアルゴリズムや人工知能を通じた複数企業による価格調整はカルテル(独禁法違反)になる恐れがあるという見解を示した。
製造物責任法
製造物責任法を理解する前提として、民法で賠償責任については、”故意または過失によって他人の権利”又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う”とされている。AIの場合には、一般的に賠償責任は所有者に帰するとされている。
また製造物責任法の条文では、”製造者などは”中略”製造物”中略”の欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる”とある。
AIにおける欠陥というのは、通説としてAIが通常有するべき安全性を欠いていることを指すとされるが、それが具体的に何かは多くの見方が存在する。
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