前回は、在宅勤務の概要について書きました。在宅勤務が広がるまでの流れを追い、その特徴について纏めました。またどんな人が在宅勤務に向いていて、どんな人が向いていないのか、についても書いています。詳しくは以下からお読みください。
今回はその続きとして、在宅勤務のメリットとデメリット、またデメリット克服による在宅勤務の有効活用について書いています。
前提として、あくまで”従業員にとって”の視点で書いています。理由は会社側の視点を混ぜると議論が複雑になるからです。ですので、あなた自身にとっての在宅勤務をイメージしながら読んでいただければと思います。
在宅勤務のメリット
在宅勤務は、本当にメリットの大きい制度です。これを有効活用することで、あなたのQOLを大きく上げられる可能性があります。
可処分時間の増加
最も大きいのは、自由に使える時間(可処分時間)が増えることです。あなたは今、通勤にどのくらいの時間がかかっていますか?首都圏への通勤時間は平均で約50分と言われています。往復なら100分です。身支度などの周辺の時間も含めれば2時間に迫ります。
在宅勤務で可処分時間が増えるとしたら、これは非常に大きな意味があります。具体的に計算してみましょう。睡眠時間を7時間とすれば、人が1日に持っている時間は17時間です。仮に勤務時間と休憩で合計10時間あるとしたら、残りは7時間。ここから通勤関連の2時間を引いたら、5時間しか残りません。この中には食事や家事や入浴などが全て含まれます。自分の自由に使える時間は、僅かしかないことは明白です。
在宅勤務によって、5時間の可処分時間が7時間に増える可能性があるのです。実に40%も時間が増える計算です。この時間を火事に当てるのか、家族との時間に当てるのか、自分の趣味や自己研鑽に当てるのか、選択肢が広がります。
1200人を対象にしたある調査では、”時間に追われている”という感覚の人は全体の約7割、”24時間は足りない”と思う人は約6割にも及びます。常に時間に追われる現代人にとって、可処分時間の増加は、”お金を払ってでも手に入れたい”ことのはずです。
通勤ストレスからの解放
通勤しなくてもいいということは、時間だけではなく、通勤によるストレスからも解放されるということです。これは可処分時間の増加と同じくらいか、人によってはそれ以上に大きな意味があります。
首都圏に通勤する多くの人は、電車に乗ります。時差出勤が徐々に普及しつつあるとはいえ、いまだに通勤電車は”非人道的”で劣悪な乗り物です。BBCの2004年の調査では、通勤電車のストレスは臨戦態勢の戦闘機のパイロットや機動隊の隊員よりも高いという、衝撃的な結果となっています。
自分が在宅勤務をすることによって混雑を経験しなくて済むというのもありますが、在宅勤務や時差出勤が普及するほど社会全体の通勤混雑が緩和されることも見込まれます。
ただでさえストレスの多い現代社会ですから、毎日のストレス要因を取り除けることの意味は限りなく大きいと言えるでしょう。
自由な職場環境
家で働くということは、職場環境を自分で設定できます。どんな服を着るのか、どのくらい化粧をするのか、どのくらい髪型を整えるのか、自分の裁量で決められます。
他にも、使用する机や椅子、ネットワークやデバイス、使う部屋など、限りなく自由に環境を決めることができます。
やり方次第で、会社にいる時よりも自分に合った職場環境を整えることができるのです。
自由な居住地
会社に行かなくて良い、もしくは行く頻度が低ければ、暮らす場所をより自由に決めることができます。全く出社しないとか、年に数回の出社でいいなら、東京にオフィスがあっても北海道や沖縄で仕事ができます。また週に1回とか月に数回程度であっても、首都圏から離れて暮らすことが可能になります。
これは特に、家族や子供がいる場合に大きな意味があります。例えば自分の配偶者の仕事の都合に合わせて引っ越せたり、子供の成長を考えて自然の多いエリアに引っ越すことができます。特に都心に住む場合は、生の自然と触れ合える場所に子供を連れて行くのは一苦労です。特にこのコロナの状況で、なかなか自由に外出できないと、子供が家の中に篭りきりになる可能性があります。もし在宅勤務により自由に居住地が決められれば、家の周りに自然が多い場所で、コロナ禍であっても子供にとって最適な環境を確保できるのです。
家事育児の時間増
在宅勤務をすることで、これまでよりも家事や育児のための時間を増やすことができます。
単に家にいるだけで、ネットスーパーや通販の受け取りができるようになったり、幼稚園にいる子供の送迎に行ける可能性が増えます。
時間に追われる現代人にとって家事と育児は最も大きな負担の一つです。家事と育児の時間を増やす余裕ができるというのは、家族全体の幸福度の向上に直結します。
在宅勤務のデメリット
ここまでは在宅勤務のメリットを挙げてきました。本当に重大なメリットが多いと感じる一方で、デメリットも間違いなく存在します。以下では代表的なデメリットを紹介します。
環境整備の負担
在宅勤務にはインターネットとデバイスが必須です。もしインターネットが自宅にない場合は、新設しないといけません。また自宅にPCがない、ヘッドセットがない、モニターがない、仕事ができる椅子や机がないなど、環境整備が不十分では業務に支障をきたします。この環境整備を負担に感じる人は少なくないでしょう。
運動量の低下
在宅勤務は、運動量の低下を招きます。デスクワークの人は常日頃から運動不足気味ですが、在宅勤務によって、ほとんどの運動機会を喪失する可能性があります。一番大きいのはもちろん通勤ですが、それ以外にもトイレの往復や多部署・会議室への移動によって、意外と歩いています。これらが1日のうちの唯一の運動だった人は、在宅勤務によって、遂に全ての運動習慣を失ってしまいます。
メンタルヘルスの低下
前項はフィジカルヘルスの話でしたが、在宅勤務はメンタルヘルスにも影響します。在宅勤務に慣れないうちは業務終了後の気持ちのオンオフの切替が難しく、何となく業務終了後も”仕事モード”が抜けず、疲れが取れないまま次の日を迎えてしまう可能性があります。
また。職場が人とコミュニケーションを取る唯一の機会だった人も多くいるはずです。そういった人たちにとっては、在宅勤務により人と話す機会が減ってしまうことが、メンタルヘルス上の問題を引き起こしかねません。
モチベーションの低下
在宅勤務は、当たり前ですが、働いている映像が同僚から見えません。手を抜こうと思えば抜けてしまう。そういう意味で、モチベーションを保つのが難しい、という人が出てきてもおかしくありません。
また、自宅で作業していることで、これまでは惰性で続けていた非創造的な業務に対して疑問が生じ、”どうしてこんな仕事をしているんだ”と思うようになってしまう人も多くいます。
”アナログ”の欠落
在宅勤務をしていると、アナログの情報やコミュニケーションがどうしても欠落します。
例えば、雑談の不在。そこでは、必ずしも業務と関係しない情報のやりとりが行われます。どこまでが業務でどこまでが雑談なのか、グレーです。しかし、これらのコミュニケーションによって新しいアイディアが生まれることがあるし、上司や同僚の状況を肌感覚で掴むことができます。
また、良くも悪くも空気感やビジョンを共有することが困難になります。同じ方向を向いてモチベーションを持ってチームビルディングするのが難しく、また上司のビジョンがわかりにくかったり、指示が通りにくくなる可能性があります。
デメリットを乗り越えて在宅勤務を有効活用する
以上見てきたように、在宅勤務はメリット・デメリットともに大きく、どちらも無視できません。在宅勤務は無条件に良いとか、悪いとかいったものではないのです。
そこでここからは、在宅勤務のデメリットを克服して、上手に在宅勤務を活用するためにどうするべきかを書いていきます。
デバイスはケチらず良いものを使う
まず初めに、デバイスの購入でケチらないことです。今後在宅勤務をせずオフィスに戻ることが確実ならともかく、今後も在宅勤務をある程度続けていく可能性が高い人は、デバイスはいいものを選んだ方がいいです。
例えばヘッドセット。たまたま手元にあった安物を使い続けている結果、周りから”あの人はオンライン会議でいつも音が悪い”とか、”いつもこちらの内容が聞こえていない”とか言われていたら、そもそも在宅勤務が成り立ちません。
また、データ量の多いファイルを扱うことが多い人は、モニターを用意すべきです。ノートパソコンの小さな画面は、細かいデータの入ったファイルを俯瞰するにはあまりにも小さすぎます。また無理してデータを見ることで姿勢も悪くなりますので、モニターは十分な大きさのものを買った方が良いでしょう。今はモニターもそれほど高くなく、1万円ちょっとでノートパソコンの2倍くらいの大きさのモニターを買うことができます。
机や椅子は、疲れがたまりにくいものを選んだ方が良いです。特に椅子は、長時間座っていても腰痛など体に痛みを起こさないものを使いましょう。もしくは、立って仕事ができるような机を用意することをお勧めします。
Excelなどデータ入力の操作が多い人は、キーボードにも拘った方がいいです。疲れにくいキーボード、打ちやすいキーボードなど様々な種類がありますので、自分に合ったものを使いましょう。
アウトプットをしっかり出す
在宅勤務で大事なことは、”決まった時間働く”ことよりも、”アウトプットを出す”ことです。たとえ在宅勤務中サボっていなくとも、オフィスで働くよりもアウトプットが低ければ、会社としては在宅勤務を認めにくくなります。最も重要なのは、在宅勤務という上司や同僚から見えない環境の中で、”アウトプットをキッチ出す”ことです。
途中でちょっとお茶飲んで休憩していたとしても、その分リフレッシュしてアウトプットをたくさん出せれば、会社としては問題ありません。むしろ、メリハリを上手につけることで、自分のモチベーションも維持でき、アウトプット増加につなげることもできます。
在宅勤務が終わった時に、”今日自分は8時間サボれずに勤務できたか”ではなく、”今日自分は8時間に値するアウトプットを出せたかどうか”と自問するようにしてみましょう。そういう思考回路が身につくと、在宅勤務でもオフィス勤務でも、パフォーマンスを出し続けられるようになります。
ITリテラシーを高める
在宅勤務をするには、どうしても最低限のITリテラシーが必要です。会社にいれば、何かパソコン操作やシステム・ネットワークでわからないことがあっても、同僚に教えてもらうことができした。しかし在宅勤務では、同僚に教えてもらうにはいちいちメールをしたりチャットをしたり、はたまた電話をしなくてはなりません。これは、自分の隣で仕事をしている人に聞くより何倍も恥ずかしいし、気も遣います。
在宅勤務をいい機械と捉え、最低限のパソコン操作やシステム活用、ネットワーク設定を自分でできるようになりましょう。ここで向上させたITリテラシーは、必ず今後生きてきます。
立ち仕事で運動不足解消
上でも少し触れましたが、もし在宅勤務による運動不足を感じるのであれば、勤務中に何とか運動できないか、考えてみましょう。
一番取り組みやすいのが、立って仕事をすることです。立机で仕事をするだけで、1日の消費カロリーがずいぶん変わります。
また、会議中などで、集中はするけれど手は空いている時などに、運動器具を使うのも効果的です。誰かが重要な発言していて、自分の手も口も止まっているけど、聞いていないといけないという状況はあると思います。オフィスにいれば、頑張って姿勢を正さないと相手に失礼ですが、在宅勤務ではそんなことを気にする必要はありません。むしろステッパーを使ったりゴムチューブを使ったりするくらいの方が、体に刺激が入り続けるので頭が回ったりするものです。
アナログのコミュニケーションを意識して確保する
デメリットの項目で書いたように、在宅勤務をするとアナログのコミュニケーションが減ってしまいます。これが減ると、会社全体のビジョンや雰囲気がわからなくなったり、同僚と話していいアイディアを出す機会が減ってしまいます。
在宅勤務が続くようであれば、アナログのコミュニケーションは意識して取る必要があります。チャットなどを通じて、雑談をしたり、電話した時に少しだけ余計な話をしたりということを、意識的にしても良いかと思います。
出勤日と在宅日を併用する
もし在宅勤務とオフィス勤務を併用するのであれば、お互いのデメリットを補って、最大のパフォーマンスを発揮できる可能性があります。
特に、もし在宅勤務とオフィス勤務の割合を決める裁量があるのであれば、ぜひあなたにとって最良のバランスを探り、心身の健康と、ワークライフバランスとパフォーマンスが最大化するような働き方を模索してみましょう。
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