今回は、著者がこれまでに携わった業務改善コンサルティング案件から事例紹介をします。今回ご紹介するのは、医療施設向けの在庫管理体制の構築です。
現状把握
管理部門の業務改善のために業務負荷の高い業務を洗い出し、その中で取り組みやすい在庫管理をターゲットとすることになりました。
当時は在庫管理のプロセスが全く確立されていませんでした。ある日の薬剤の出入りが管理されていないだけでなく、どの薬剤がいくつあるのか誰もわからず、倉庫を目視しないとわからないという杜撰な状況でした。
解決策の策定
解決策としては、新たに在庫管理をする体制を構築することを掲げ、具体的には以下の手順で進めました。
在庫の可視化
まずは、倉庫にどの薬剤がいくつあるのかを整理することから始めました。購入可能性のある薬剤をExcel上で一覧にして縦に並べ、それぞれの数量をその横に記載します。
出荷の記録
これまでは倉庫にある薬剤を誰でも自由に取り出せるようになっていたために、在庫から薬剤がどれだけ減ったかが記録されていませんでした。
そこで、出荷の管理方法を導入しました。在庫の可視化で作成した在庫一覧の列方向に日付欄を作成し、当該の列に出荷数(薬剤をいくつ持ち出したか)を記録します。
最低在庫数の設定
続いて、最低在庫数を設定していきます。それまでの運用では、その日の担当者が倉庫を目視で確認して、在庫の過不足を主観的に判断していました。そのため作業に時間とストレスがかかるうえ、発注量に波がありました。
在庫管理表においては、ある薬剤について、在庫数がいくつを下回ったら追加発注をするのか、予め決めておきます。これが、追加発注をかけるかどうかの閾値となります。
発注単位の設定
続いて、追加発注する際の単位を設定しておきます。(1箱、10パックなど)
発注単位と最低在庫数(前述)を設定することで、次に説明する推奨追加発注量を設定することができます。
推奨追加発注量の設定
ある時点での在庫数、当日の出荷数、最低在庫数、発注単位がわかれば、推奨追加発注量を自動計算させることができます。簡略化して示すと、以下のような計算です。
- (A)当日終了時点在庫数 = 当日朝の在庫数 + 当日の出入り
- (B)在庫過不足 = 最低在庫数 – (A)
- もし(B)が0以上であれば発注しない
- もし(B)が0を下回っていれば、発注単位分だけ追加発注を推奨する
この推奨追加発注量が自動で表示されるようになることを目標とします。
運用開始までの流れ
上述の解決策を前提に、運用開始までに以下のようなプロセスを経ました。
関連部署との合意形成
本案件は会社トップからの依頼ではなく、会社内の一部署からの依頼だったので、業務で関係のある他部署を巻き込む必要がありました。説明会を実施し、新業務プロセスについて理解・納得を得ようと心掛けましたが、これまでのプロセスが変わることへの拒否感を示す部署もあり、一筋縄ではいきません。
そこで、まずは部門長を集め、旧プロセスが特定部署の手作業に依存しており、新プロセスが全体最適である旨を説明したうえで、各部門長から部員にトップダウンで指示を出してほしいと依頼しました。
結果的にはこれが奏功し、徐々に他部署の理解を得て、運用開始が視野に入りました。
ツール作成
今回のツールは、ExcelのVBAを使って作成しました。業務担当者が日々操作することになるためExcelが最適であったのと、VBAであれば最低限のメンテナンスができるよう教育することが可能だったためです。
毎朝1回マクロのボタンを押下することで、前日の薬剤の出荷数を在庫管理シートに反映し、最低在庫数から推奨追加発注数を自動計算させます。その追加発注数を見ながら、担当者が最終的には自分の判断で追加発注の業務を行います。
運用開始後のフォローアップ
運用開始後に、事前打ち合わせでは出なかった追加要望を盛り込んだり、ツールに微修正を加え、プロジェクト完了となりました。
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